研究者紹介 – 高山 和雄

高山 和雄

Kazuo Takayama

幹細胞学
大阪大学大学院薬学研究科
特任助教
2015年、大阪大学大学院薬学研究科博士後期課程修了。同年10月からK-CONNEX着任。2017年3月に離任。
研究内容

ヒトiPS細胞由来肝細胞を用いた創薬・個別化医療の実現に向けて

現在、創薬過程では肝細胞を用いた毒性スクリーニング等の試験が行われています。その際に用いられているヒト初代培養肝細胞は供給量に制限があるため高価であり、また、その薬物代謝能は人種や個人によって大きく異なります。そこで、私たちはヒト初代培養肝細胞に匹敵した機能を有するヒトiPS細胞由来肝細胞の分化誘導法の開発とその創薬応用に取り組み、将来的には様々な人種・個人に最適な創薬ならびに薬物治療の実現を目指しています。

創薬開発を大きく変えるヒトiPS細胞由来肝細胞

肝臓は薬物を代謝する主要な臓器であり、肝毒性の判明は薬物の開発中止・市場撤退の主たる原因の1つです。そのため、多くの製薬企業では、ヒト初代培養肝細胞を用いた候補薬物の毒性スクリーニングを実施することによって、肝毒性を起こしうる候補薬物の同定を試みています。しかしながら、ヒト初代培養肝細胞はほとんど増殖能を持たず、ロット差があることに加え、同一ロットの入手に制限があり非常に高価であることから、大量の均質な細胞が必要となる大規模な毒性スクリーニングにて利用するのは困難な状況です。そこで、ほぼ無限の増殖能と多分化能を有するヒトiPS細胞からヒト初代培養肝細胞と類似した機能を有する肝細胞を作製できれば、毒性スクリーニングにおいて非常に重要なツールとなり得ると考えています。

新しい分化誘導技術でヒトiPS細胞由来肝細胞の創薬応用の実現を目指す

創薬プロセスの加速化に資するヒトiPS細胞由来肝細胞の作製を目指し、私たちは、2つの研究を行いました。1つ目は、ヒト初代培養肝細胞と同等の薬物代謝酵素の発現量を有する肝細胞への効率的な分化誘導法の確立です。私たちが本研究を開始した当初、従来の技術では、ヒトiPS細胞から肝細胞に分化するのは10~30%、しかも、ヒト初代培養肝細胞とくらべて、薬物代謝酵素の発現量が低いことが課題でした。そこで、私たちは分化誘導法の改良を行ったのです。肝発生で重要な役割を担うFOXA2、HNF1α遺伝子を分化途中の細胞に遺伝子導入し、ナノピラープレートと呼ばれる器材を用いて三次元培養するという独自の手法を開発しました。その結果、80%以上の効率でヒトiPS細胞から肝細胞を分化誘導でき、また、主要な薬物代謝酵素の発現量がヒト初代培養肝細胞に匹敵するレベルである肝細胞の作製に成功しました。2つ目は、毒性スクリーニングの実施に必要な細胞数を確保するため、細胞の大量培養法の確立に取り組みました。最終分化したヒトiPS細胞由来肝細胞は、ヒト初代培養肝細胞と同じく、ほとんど増殖能を持ちません。そこで、高い増殖能を有しており、短期間で肝細胞に分化するヒトiPS細胞由来肝細胞の前駆細胞(肝幹前駆細胞)を複製させる技術を確立することにしました。細胞外基質であるラミニン111上で培養することよって、肝幹前駆細胞の性能を保持した状態での複製を可能にしたのです。上記2つの技術で、高い肝機能を有したヒトiPS細胞由来肝細胞をより安価かつ大量に供給できる技術基盤が確立されたと考えています。


【図】ヒトiPS細胞由来肝細胞の医療への応用

超えるべき壁と更なる医療への貢献

一方で、課題は残されています。作成したヒトiPS細胞由来肝細胞が成人型肝細胞よりも胎児型肝細胞に近い表現型を有しているということです。また、分化誘導した肝細胞集団は少ないながらも肝細胞以外の細胞を含むヘテロな細胞集団であるため、より一層純度を向上させることも重要な課題です。そこで今後、ヒトiPS細胞由来肝細胞を種々の細胞と共培養することによる肝成熟度の向上と、ゲノム編集技術等を用いた高機能なヒトiPS細胞由来肝細胞を純化する方法の開発を進めていく予定です。

さらに、私たちはヒトiPS細胞由来肝細胞を用いて個別化医療を実現できると考えています。従来のヒト初代培養肝細胞を用いた研究では、様々な個人・集団に最適な創薬ならびに薬物治療(薬の選択・投薬量の最適化など)を行うことは困難でした。しかし、多様な個人・集団から樹立したヒトiPS細胞由来肝細胞を用いた毒性試験・代謝試験等を実施することによって、従来よりも安全かつ効率的な薬物治療を実現できると期待しています。実際に、私たちは既に12ドナーからヒトiPS細胞由来肝細胞を作製し、元の個人の肝細胞の特徴が強く反映されていることを確認しており、個別化医療を実現するための重要な予備的知見を得ています。

 

また、慢性肝不全・急性肝不全・遺伝性肝疾患などに対して、肝移植・肝細胞移植の新たな供給源としてヒトiPS細胞由来肝細胞の活用も考えています。この細胞の強みを生かして創薬プロセスや薬物治療法を改良し、さらには移植を必要とする重篤な肝障害を患った人々の治癒が一日も早く実現できるように、研究を効率的かつ迅速に推進していきます。