研究者紹介 – 木野 勝

木野 勝

Masaru Kino

天文光学
京都大学大学院理学研究科
助教
名古屋大学大学院理学研究科修了。同光赤外天文計測学寄付講座研究員、寄付講座助教を経て、京都大学大学院理学研究科に赴任。2015年11月からK-CONNEX着任。2017年12月に離任。
研究内容

ものづくりの技術を集めて宇宙を観る

京都大学の宇宙物理学教室・附属天文台では太陽系外の惑星や、星の死に際で起こる爆発現象を観測するために口径3.8 mの新技術光学赤外線望遠鏡を建設しています。この望遠鏡は国内最大であることに加え、次世代の巨大望遠鏡に必須の技術である分割主鏡を日本で初めて採用しています。望遠鏡の主鏡は直径が大きいほど集光力が増すとともに空間分解能も高くなりますが、10 mを超える巨大な鏡は生産設備や輸送の問題で制作が困難です。そこで大きさ1~2 mの鏡に分割して制作し、望遠鏡の上に並べ直す「分割鏡」の技術が必要になります。この望遠鏡の心臓部である分割主鏡の光学評価、およびその制御装置の開発が主な研究対象です。


図1 岡山天体物理観測所の隣で組立中の3.8 m新技術光学赤外線望遠鏡。国内で最大の望遠鏡であり2017年春の完成を目指している。

高精度な鏡をつくるための高精度な測定器をつくる

分割主鏡では1枚あたりの鏡は取り扱いやすい大きさになりますが、その開発にあたっては2つの困難さがあります。一つは、それぞれの鏡が最適な形に加工されたことを確認する際、既存の計測技術が使えなくなることです。光学望遠鏡の主鏡は、全面にわたり形状誤差が数十ナノメートル以下の精度が要求され、一般には、レーザー干渉計を用いて測定します。つくりたい鏡面と同じ波面形状をもつ被検光を加工した鏡で反射させた後で、理想的な波面形状をもつ参照光と重ねあわせることで干渉縞として形状誤差を検出するのです。しかし、分割鏡では鏡の形状が回転対称ではない軸外し非球面になり、同じ波面形状を持つ光を作成することが極めて困難です。この解決に向け、Computer Generated Hologram (CGH)を使った干渉計を開発しました。Hologramは物体から出た光の波面を再現することで立体的な虚像を作る光学素子として普及していますが、目的の波面形状を作るようにコンピュータを用いて設計されたホログラムであるCGHを干渉計に応用すれば任意の曲面の測定が可能になります。CGHの特徴を活かしてより高精度で使いやすい干渉計にするとともに、目的の波面形状に合わせたCGHを設計するソフトウェアの開発も進めることで応用範囲を広げていきます。


図2 CGHを用いた干渉計のレイアウト

正確な鏡の配置が観測の鍵となる

2つ目の課題は望遠鏡の上に鏡を並べる際にも高い精度が要求されることです。本望遠鏡は、扇に貼る紙のような形の分割鏡を内側は6枚、外側は12枚で円周上に並ぶように花弁型に配置し、架台に載せる方式をとっています。これは光赤外線望遠鏡では世界初の試みであり、その制御技術の確立に成否がかかっているのです。望遠鏡は頑丈に作られていますが観測する天体に向ける際に方向を変えると、鏡を支える架台構造がわずかに変形してしまいます。また外の環境で使用するということも無視できません。外気に晒された環境で使用するため温度変化や風による微妙な位置ずれをリアルタイムに検出し、補正するシステムが必要です。現在開発中のシステムでは200回/秒でずれを測定し、常に隣同士の鏡が30ナノメートル以下になるよう、補正を行います。そこで分割した18枚の鏡に72個の変位センサーと54個のアクチュエーターを取り付けて鏡の位置と傾きを補正しようと考えています。変位センサーは渦電流方式であり、隣り合う2枚の鏡の段差を測定します。また鏡の位置を10ナノメートルオーダーで調整するため、弾性変形を用いることで遊びをなくしたテコ式の減速器を開発し、リニアアクチュエーターと組み合わせて使用する予定です。さらに、最短時間で補正するための制御アルゴリズムの開発も重要な課題です。


図3 実験中の主鏡制御システム。上に載っている2枚の板は扇型分割鏡のダミーで裏面に取り付けた3個のアクチュエーターを使い2枚の鏡の段差・傾きを0に保つ。

異分野技術のアイデアを集め、新しいシステムを作りだす

現在は、これらのプロジェクトの中でより精度の良いセンサーやアクチュエーターを求めて新しい知恵を求めています。各装置の適切な配置箇所についてはシミュレーションにて決定し、すでに室内での挙動を確認済みです。しかしながら、10ナノメートル単位のずれを検出するためには、変位センサーの測定誤差を外的環境に応じて補正する必要があり、今後、外環境で使用する実機への導入を考える上で1つの課題となります。精度や安定性に加えて大きさや重さ、金額面でも更に良い機材やアイデアが必要なのです。

これらの研究は今後開発される望遠鏡や天体観測機器への適用も目標としており、国際共同プロジェクトであり同じ分割主鏡型望遠鏡である次世代の超巨大望遠鏡計画Thirty Meter TelescopeやEuropean Extremely Large Telescopeでも同様の技術が活用されます。さらに、高精度な計測・制御は様々な研究開発の礎となる技術です。得られた技術や知見を広く発信するとともに、工学分野の研究者やものづくりの現場に携わる技術者とも相互に協力し、自然科学との橋渡しをしていきます。