研究者紹介 – 岩崎 未央

岩崎 未央

Mio Iwasaki

分子生物学
京都大学iPS細胞研究所
特定助教
2010年より慶應義塾大学 博士課程・先端生命科学プログラム入学、日本学術振興会特別研究員(DC1)、2013年3月に京都大学大学院薬学研究科にて博士(薬学)取得。同年4月から日本学術振興会特別研究員(PD)、2016年から京都大学 iPS細胞研究所 特定研究員を経て、2017年4月より現職。
研究室HP http://researchmap.jp/omio/
主要論文
研究内容

遺伝子発現の量と質を制御するメカニズムを明らかにする

私たちの身体には様々な機能をもった細胞があります。そうした機能の違いはどこから生じるのでしょうか。細胞内ではDNAからRNA、そしてRNAからタンパク質が作られます。実際に細胞を特徴付けているのは主にタンパク質です。しかしRNAがタンパク質よりも実験的に調べやすいため、従来はRNAの種類や量の情報をもとに細胞の特徴が説明されてきました。ところがRNAとタンパク質の量には必ずしも比例関係がないことや、細胞種によってタンパク質の位置や修飾状態が異なることがわかってきており、RNAのみでは細胞の特徴に迫ることはできません。そこで私は細胞内のタンパク質を網羅的に測定するプロテオーム解析の技術開発に取り組んでいます。事前に細胞内の小器官を細かく分け、長い時間をかけて計測することで、多くのタンパク質を調べられるようになってきました。この研究が進めば細胞分化を制御するタンパク質群を明らかにできます。さらにiPS細胞の作製に役立つタンパク質を調べることで医療へも貢献したいと考えています。


細胞を特徴づけるタンパク質を正確に測定する

人の身体は様々な細胞によって作られています。たとえば伸縮性のある筋肉細胞や、脳のなかで信号を伝える神経細胞など、その場所によって異なる機能をもっています。こうした細胞の機能の違いがどこから生じてくるのでしょうか。細胞内では遺伝子(DNA)から転写物(mRNA)、そしてmRNAからタンパク質が作られます。そして実際の細胞で機能的に働いているのは、主に最終的に作られるタンパク質なのです。つまり、細胞ごとの働きの違いは細胞内のタンパク質構成の違いとも言えます。どのような種類のタンパク質がどれくらい存在しているのか、これを明らかにすることで細胞の機能に迫ることができるのです。
しかし、タンパク質を網羅的かつ正確に測定するのは困難です。DNAやmRNAは複製技術によってどんなに少量でも増幅して調べることが可能ですが、タンパク質は複製できません。そこで従来は、細胞内のmRNAの構成がタンパク質と相関するという考えに基づいて、細胞の機能が説明されてきました。しかし一方でmRNAとタンパク質の量には必ずしも比例関係がないことが知られています。さらに近年、細胞種によってタンパク質の位置や修飾状態を変化させるメカニズムが解明されてきました。つまりmRNAではなくタンパク質の正確な測定が必要になってきたのです。

タンパク質を網羅的に調べる技術開発

細胞内のタンパク質を一度にすべて測定することをプロテオーム解析と言います。一般的にプロテオーム解析では「高速液体クロマトグラフィー」と呼ばれる方法が用いられ、これは細胞内のタンパク質を細長いチューブ(カラム)に通すものです。カラムを流れてくるタンパク質を順番に質量分析器と呼ばれる装置にかけることでその種類を同定します。従来よりも多くの種類のタンパク質を調べるために、私は2つの工夫をしました。ひとつは非常に長いカラムを用いて時間をかけて流すことで、個々のタンパク質を分離して分析しやすくしました。もうひとつは、事前に細胞の核やそれ以外の部分を細かく分けてから測定することで、どの場所にあるタンパク質かという情報も得られるようにしました。こうした工夫によって従来は1〜10mgのタンパク質が必要だったプロテオーム解析が、その10〜100分の1以下の量で可能になり、測定できる細胞の種類も増えたのです。

ヒトiPS細胞ではタンパク質の特殊な制御機構が存在する

次に、測定したタンパク質の構成が、mRNAの構成とどの程度異なるのか、iPS細胞とその元となる線維芽細胞を比較しました。その結果驚くべきことに、特にヒトiPS細胞において、mRNAとタンパク質の量比が著しく異なっているケースが見られました(図)。これは、mRNAからタンパク質を作る段階で細胞種によって異なる制御を受けていることを示唆しています。これをさらに調べるためにいくつかの実験を計画しています。例えば、その制御を受けるタンパク質がどの程度細胞にとって必須なのか調べることで、制御機構の重要性が明らかになるでしょう。また制御機構によってmRNAからタンパク質を作る量を増減させる方法や、細胞種ごとのタンパク質の修飾状態の重要性も分かるかもしれません。

図 ヒトiPS細胞に特に多く存在するタンパク質がある

タンパク質による細胞機能の制御機構の解明へ

DNAからmRNA、mRNAからタンパク質が作られるという流れは1958年に提唱され、多少の修正を経て現在でも分子生物学の基本原則としてセントラルドグマと呼ばれています。しかし、各段階でどのような制御機構が存在しているのかという全貌はいまだ解明されていません。各細胞の独自性を決定するタンパク質の制御機構が明らかになれば、制御を担うタンパク質を強制的に発現させることで悪性の腫瘍を死滅または良性に変化させるなどの、細胞運命の人為的な制御が可能になる可能性があります。また、細胞種によって異なるタンパク質をターゲットとした治療薬を開発したり、iPS細胞を作りやすくするタンパク質を解明したりすることで、製薬や医療応用等の幅広い分野に波及すると考えられます。