研究室HP | http://naoki-takeishi.sakura.ne.jp/jp/home.html |
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主要論文 |
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研究内容 |
細胞を取り巻く「流れ」を俯瞰する〜生物を流体力学の視点からみつめて〜我々の身体を巡る血液を例に挙げるまでもなく、生命活動と「流れ」は密接な関係があります。血液の他にも、呼吸や排泄など、生体内の流れには枚挙に暇が無く、その様相も多様です。特に先に挙げた血液は、赤血球や白血球といった細胞を含む懸濁液であり、一様な流体ではありません。この事実は、人の髪の毛よりも細い毛細血管で特に重要となります。なぜならば、毛細血管の太さと細胞の大きさがほぼ同等であるため、細胞同士の衝突からも流れが生じ、血液としての振る舞いは複雑な流体の様相を呈すようになるからです。私は、流れを学問する流体力学に立脚し、実験では捉えることが難しい細胞流動の詳細を、数値シミュレーションという手段を使って明らかにすること、そして、これらの知見をもとに「流れ」を俯瞰する流体力学的視点を生物学の世界に構築することを目指しています。 流れに従うか・流れに逆らうか赤血球にとどまらず、血液中のあらゆる細胞や成分の動態も「流れ」のなかにあります。例えば右の図に示すように、血液中を流れる白血球は、体内に細菌などの異物が侵入すると、攻撃のために血管壁を通り抜け侵入者の方へと移動しますが、その際に白血球はいったん血管壁に接着して止まらなければなりません。また、がん細胞が転移するときにも同じく、血液中を流れるがん細胞は血管壁と接着することで浸潤・転移の過程を進行させます。これらの過程において、血液中の細胞は「流れ」に流されることなく、どのようにして特定の血管壁と接着することができるのでしょうか?この問題を明らかにするために、私は、血液中の様々な細胞の流れを統一的に解析するための計算力学モデルを構築し、血漿としての流体力学、細胞膜の固体力学を連成した物理シミュレーションを行ってきました。 見えない流れの力を「見える化」する物理シミュレーションこのシミュレーションは、画像処理に特化して開発されたチップであるGPU(Graphics Processing Unit)と、これに有効な計算手法を選択的に組み合わせることによって、高速かつ高精度な計算を実現しました。構築したプラットフォームは、白血球やがん細胞の流動解析、さらに薬剤粒子の輸送を評価する上でも有用であることを示してきました。 生命現象の階層性を考慮した力学の枠組みを構築したい将来的には、上述した細胞スケールの流れの知見から、マクロな血液の特性を再構築し、血栓症などの血流動態の詳細な解析を可能にしたいと考えています。このような研究を通じて、生物学の学問体系に力学の視点を導入し、未解明な生体内現象を説明する力学の枠組みを構築できればと考えています。これまで、血液の流れを中心に分子と細胞スケールの階層性を考えてきましたが、階層を横断する計算力学モデルは、血液の流れに限らず細胞自身の能動的な運動を説明する上でも重要であると考えています。現在私は、白血球やがん細胞の浸潤、脳形成過程に見られる神経前駆細胞の移動など、細胞の能動的な運動を制御する力学的条件を明らかにしたいと考え、海外の研究機関と共同して階層性を考慮した計算力学モデルの構築にも取り組んでいます。生体内の流れに着目することで見えてきた階層性の視点を、細胞自身の運動に応用し、新たな領域を開拓に繋げられればと考えています。 ![]() 図1 白血球の接着過程 ![]() 図2 血流と細胞接着のシミュレーション |