研究者紹介 – 福間 真悟

福間 真悟

Shingo Fukuma

臨床疫学、ヘルス・データサイエンス
京都大学大学院医学研究科
特定准教授
2002年広島大学医学研究科修了。複数の医療機関における臨床経験を経て、京都大学大学院医学研究科博士課程に進学。2013年医学博士号を取得。その後、京都大学医学部付属病院特定助教、特定講師、特定准教授を経て2017年4月より現職。
主要論文
研究内容

健康医療ビッグデータ解析が拓く新たなヘルスケア

健康の維持・増進や、そのための予防・医療・介護など健康管理のトータルな仕組みをヘルスケアといいます。高齢化社会対策などの観点から、国民のヘルスケアを社会として支えることが求められています。しかし、真に効果のあるヘルスケアを提供するための科学的根拠(エビデンス)が不足していたり、エビデンスとは異なる診療が行われていたり、効果的かつ効率的なヘルスケアは実現出来ていません。一方、ITの進歩によって活用可能な健康医療のデータは飛躍的に増大しています。複雑・多様なデータの分析方法も大きく進化し、データから“正しい”エビデンスを導くことが期待されます。私は、これまでに国・自治体で集積されたデータを用いて慢性腎臓病など、生活習慣病対策のための解析を行ってきました。今後はさらにITを駆使し新たなデータを取得するとともに、因果推論技術という統計解析技術を用いて、より“正しい”エビデンスを導こうとしています。これにより現在のヘルスケアシステムが抱える課題を明らかにし、“正しい”ヘルスケアの実現を目指しています。


レセプトから診療の実態を明らかに

私たちが医療機関で受診したとき、「レセプト」と呼ばれる医療行為や投薬に関するデータが記録されます。このデータを日本全国で収載したデータベース(NDB)の運用が開始され、全国的な医療の実態把握が可能となってきています。私はNDBを利用して、高齢者の慢性腎臓病について社会疫学的観点から分析しています。その背景には加齢によって高齢慢性腎臓病患者が増加し、末期腎不全に至った場合の社会的負担が大きいという課題があります。そこで、まずは日本の慢性腎臓病患者がどのような医療を受けているのか評価するために、医療の専門家とともにレセプトデータ分析から診療の質を測る指標を構築・可視化しました。その結果、すでに知られている慢性腎臓病に関するエビデンスとは異なる診療が行われているケースが明らかになりました。また台湾と米国のレセプトデータも対象に含めて国際比較にも取り組み、各国の診療の質改善に貢献するためのエビデンスを導いています(国立台湾大学、ミシガン大学との共同研究)。

レセプトと健康診断のデータから医療を把握する

医療レセプトデータから患者が受けた医療行為の履歴は分かるものの、日常的な健康状態に関するデータは不足しています。そこで、例えば健康診断のデータと組わせることで、患者の状態を総合的に把握できます。その取組として、大型国保組合の健診データとレセプトデータを統合した分析を行っています(全国土木建築国民健康保険組合との共同研究)。その結果、健診で糖尿病を指摘された人の約40%が、慢性腎臓病では約85%が医療機関に受診していないことが分かりました。さらに、未受診者に受診を勧めることによって、受療行動に与える影響も明らかにしようとしています。また、定期的な健診の時系列データを元に、ベイジアンネットワーク等といった数学的解析によって、個人や集団における健康状態がどう変化するのか予測を試みています。このように複数のビッグデータを組み合わせることで、新たなヘルスケアへの知見を得ています。

ICTを活用して健康医療データを充実させる

情報通信技術(ICT)の活用により心拍や位置情報など多様なデータを得られるようになり、健康医療データ分析の可能性は大きく広がっています。しかし、ICTスキルの高くない高齢者はその恩恵を享受しにくいという課題もあります。そこで私は福島県白河地域において、高齢者でも使えるICTを導入しています(からだの学校®)。参加者が紙の手帳に記録する日々の行動が地域に設置された端末によってデータ化され、健康医療データと統合されます。また、別の地域では老人ホームでICT機器を活用して位置情報や活動時間帯などの生活データを記録しています(日本老人福祉財団との共同研究)。この機器は自動的にデータを取得するため操作の必要がありません。機器を身につけていれば、例えばある場所で動けなくなった場合、スタッフが迅速に気づくことができます。このように誰にでも扱いやすいICTによって、高齢者が自立した生活を行えるようヘルスケアを支えています。

図1 複数のビッグデータから真のエビデンスを導き、新たなヘルスケアへ

健康医療データに潜む”ウソ”を見破り”正しい”エビデンスを創出する

以上のように、私は様々な方法で健康医療データを集めて活用しています。しかし日常的なデータの分析を行う際に問題となるのが、測定されていない因子の影響です。例えば「炭水化物の摂取量を減らして血糖値を下げる」という行為は一見正しそうに見えます。しかしそれを確かめるためには血糖値に影響する他の因子(肥満度や運動量など)も考慮する必要がありますが、すべての潜在的な因子を測定し、それら因子間の因果関係の有無を明らかにすることは現実的に困難です。そこで因果推論技術を改良し、未測定の因子があっても因果関係を推定し真のエビデンスを導く解析技術を開発しています(滋賀大学との共同研究)。また、この技術を人工知能に組み合せれば、これまで気づかなかったような多くの病気と生活習慣の真の関係を知ることもできるでしょう。レセプトデータを含む多様な健康医療データを包括的に分析し、さらにその分析手法も工夫することで、真に効果的・効率的なヘルスケアの実現を目指しています。