研究者紹介 – 福間 真悟

福間 真悟

Shingo Fukuma

臨床疫学、ヘルス・データサイエンス
京都大学大学院医学研究科
特定准教授
2002年広島大学医学研究科修了。複数の医療機関における臨床経験を経て、京都大学大学院医学研究科博士課程に進学。2013年医学博士号を取得。その後、京都大学医学部付属病院特定助教、特定講師、特定准教授を経て2017年4月より現職。

研究室HP http://shingo-fukuma.jp/
主要論文
  1. Fukuma S*, Iizuka T, Ikenoue T,Tsugawa Y. Impact of the National Health Guidance Intervention for Obesity and Cardiovascular Risks on Health Outcomes among Japanese Men. JAMA Intern Med. 2020 (in press). *corresponding author査読あり IF 18.652.
  2. Fukuma S*, Ikenoue T, Shimizu S, Norton EC, Saran R, Yanagita M, Kato G, Nakayama T, Fukuhara S and on behalf of BiDANE: Big Data Analysis of Medical Care for the Older in Kyoto. Quality of care in chronic kidney disease and incidence of end-stage renal disease in older patients: cohort study. Meical care. 2019 (in press). *corresponding author査読あり IF 3.081.
  3. Fukuma S*, Ikenoue T, Yamada Y, Saito Y, Green J, Nakayama T, Fukuhara S. Changes in drug utilization after publication of clinical trials and drug-related scandals in Japan: an interrupted time series analysis, 2005-2017. J Epidemiol. 2020 in press. *corresponding author査読あり IF 3.691.
  4. Fukuma S*, Ikenoue T,Saito Y, Yamada Y, Saigusa Y, Misumi T, Taguri M. Lack of a bridge between screening and medical management for hypertension: health screening cohort in Japan. BMC Public Health. 2020 (in press). *corresponding author査読あり IF 2.05.
  5. Fukuma S*, Ikenoue T, Sasaki S, Saigusa Y, Misumi T, Saito Y, Yamada Y, Goto R, Taguri M. Nudging patients with chronic kidney disease at screening to visit physicians: A protocol of a pragmatic randomized controlled trial. Contemp Clin Trials Commun. 2019 Aug 16;16:100429. *corresponding author査読あり IF 1.010.
研究内容

健康医療ビッグデータ解析が拓く新たなヘルスケア

健康の維持・増進や、そのための予防・医療・介護など健康管理のトータルな仕組みをヘルスケアといいます。高齢化、ライフスタイルの変化など内的ショックや、感染症、経済変化など外的ショックに柔軟に対応するresponsiveかつresilientなヘルスケアを設計することが求められています。しかし、真に効果のあるヘルスケアを提供するための科学的根拠(エビデンス)が不足していたり、エビデンスとは異なるプラクティスが行われていたり、効果的かつ効率的なヘルスケアは実現出来ていません。一方、データ解析技術や環境の進化によって活用可能な健康医療のデータは飛躍的に増大しています。社会が求める課題(リサーチクエスチョン)、データの生成過程、解析の仮定を正しく理解し、データから“真に価値のある”エビデンスを導き、それを実社会に還元することが期待されます。私は、国・保険者の大規模データベースを活用した慢性疾患対策、高齢者の生活データを活用した介護予防など、現在および未来の健康課題に備えるための臨床疫学研究を進めてきました。臨床疫学、データサイエンス、情報学、経済学、統計学など、様々な領域の知見や方法論を融合、拡張し、新たなエキガクの実践を目指しています。


レセプトから診療の実態を明らかに

私たちが医療機関で受診したとき、「レセプト」と呼ばれる医療行為や投薬に関するデータが記録されます。このデータを日本全国で収載したデータベース(NDB)の運用が開始され、全国的な医療の実態把握が可能となってきています。私はNDBを利用して、高齢者の慢性腎臓病について臨床疫学的観点から分析しています。その背景には加齢によって高齢慢性腎臓病患者が増加し、末期腎不全に至った場合の社会的負担が大きいという課題があります。そこで、まずは日本の慢性腎臓病患者がどのような医療を受けているのか評価するために、医療の専門家とともにレセプトデータ分析から診療の質を測る指標を構築・可視化しました。その結果、すでに知られている慢性腎臓病に関するエビデンスとは異なる診療が行われている状況や、診療の質が高いと腎不全の発生率が低いことが明らかになりました。また台湾と米国のレセプトデータも対象に含めて国際比較にも取り組み、各国の診療の質改善に貢献するためのエビデンスを導いています(国立台湾大学、ミシガン大学との共同研究)。

レセプトと健康診断のデータから医療を把握する

医療レセプトデータから患者が受けた医療行為の履歴は分かるものの、未診断、未治療者の健康状態に関するデータは不足しています。そこで、健康診断のデータと組み合わせることで、未診断や未治療の集団を含めた社会の健康課題を総合的に把握できます。日本では40歳以上成人を対象(年間2700万人が受診)に年1回の健診(いわゆるメタボ健診)が実施されていますが、そのようなデータが蓄積されている状況は世界的にも稀です。我々は、これらの大規模データを活用して、保険者(全国土木建築国民健康保険組合、広島県、北海道等)の健康課題インパクト分析や保健事業連携を進めています。例えば、慢性腎臓病の新規診断者で健診後6か月の医療機関受診割合が2%しかないという状況に対応するため、ナッジ(行動経済学による行動変容介入アプローチ)を利用した受診勧奨介入を設計し、大規模ランダム割り付け試験をヘルスシステム上で実行しています。年代と共に増加する多併存疾患に対応するためには、全疾患、全投薬履歴データに深層学習フレームワークを応用し、多疾患対応の新たな予測モデル構築を行っています。

臨床疫学研究の対象となる健康医療データを拡張する

情報通信技術(ICT)の活用により心拍や位置情報など多様なデータを得られるようになり、健康医療データ分析の可能性は大きく広がっています。しかし、ICTスキルの高くない高齢者はその恩恵を享受しにくいという課題もあります。そこで私は、町型の高齢者コミュニティにIoT(Internet of Things)を実装し、介護予防につなげる取り組みを行っています(日本老人福祉財団との共同研究)。高齢者の活動(戸外活動、交流時間等)を可視化し、COVID19パンデミック下での活動低下の課題などを明らかにしました。AIスピーカーを用いて応答速度による認知機能モニタリングや、動作解析AIを用いた転倒リスクモニタリングなど、生活の中で、機能低下のリスク検知に有用なデータを捕捉する実験を複数行っています。また、社会に広がるSNSなどデジタルデータのテキストから、リアルタイムに社会の健康課題を捉える解析を行っています。COVID19と共存する時代におけるネガティブ感情のモニタリングなども行っています。

図1 データから学び社会の健康課題を解決

健康医療データに潜む”ウソ”を見破り”正しい”エビデンスを創出する

以上のように、私はICT 技術の応用や、データサイエンス・エンジニアリングによって、社会の健康課題解決に活用可能なデータの範囲や規模を拡張しています。しかし、この様な大規模データの解析、解釈において問題となるのが、データに潜む疑似相関です。特に、既存の解析方法では、測定されていない因子の影響に正しく対処することは困難な場合があります。因果関係を知るためには、実験(ランダム割り付け試験)を行うことが最もシンプルですが、常に実験は実行できません。私は、大規模データ上での疑似実験を科学的に妥当な方法で実行するための方法論の拡張、データ拡張、実験と疑似実験の連携に取り組んでいます。大規模データに潜むウソを見抜き、正しいエビデンスを抽出すること、それを社会に還元することで、現在および未来の健康を支えることができると考えています。そのために、新たな臨床疫学の可能性を追求しています。